WINDOW RESEARCH INSTITUTE

連載 展覧会レポート:第16回ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展 2018

「FREESPACE」を窓から覗く PART 1

柴田直美(編集者)

07 Oct 2018

Keywords
Architecture
Exhibitions

2018年5月26日(土)から11月25日(日)まで、イタリア、ヴェネチアにおいて、第16回ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展が開催されている。総合ディレクターに指名された、アイルランド、ダブリンを拠点とするグラフトン・アーキテクツ(Grafton Architects)の代表、イヴォンヌ・フェレルとシェリー・マクナマラによって、総合テーマはFREESPACEとされた。

グラフトン・アーキテクツはミラノのボッコーニ大学経済学部、リマの工科大学「UTEC」、リムリック大学医学部、現在、建設中のトゥールーズ第1大学経済学部などの大学施設をはじめ、公共性が高い建物の設計を多く手がけている。第13回ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展で、建築は「建設される地理」としてランドスケープを再構成する一部であると捉え、その場固有の地理的・文化的特性を起点に対話によって設計を進める手法を展示した「Architecture as New Geography(新しい地理学としての建築)」で、銀獅子賞を受賞している。

本展では、各国館や出展建築家に彼ら自身が考える「FREESPACE」を提示してもらうことで、建築の多様性や特異性、連続性などを解き明かす、としている。

数多い展示物の中から、窓に関係するものを紹介するが、各国館や展示そのものが、それぞれが見せる「FREESPACE」への窓(windowは知る機会、手段という意味も持つ)とも言えるだろう。


中央館
CARUSO ST JOHN ARCHITECTS with PHILIP HECKHAUSEN

「The facade is the window to the soul of architecture(ファサードは建築の根源への窓である)」というタイトルが示すように、長きにわたってファサードが建築のディコースから外れていることに対するアンチテーゼ。積み重ねた経験に裏打ちされた、カルソ・セント・ジョン・アーキテクツ(Caruso St John Architects)だからこそのステートメントである。彼らの建築作品の立面図と彼らが影響を受けた建築のファサード写真(撮影:フィリップ・ヘックハウゼン)を上下に並ベ、壁面に展示している。歴史に敬意を払い、周囲の既存の建築と調和するデザインを導き出すカルソ・セント・ジョン・アーキテクツの信念と設計手法を垣間見ることができるような展示である。

例えば、2015年にロンドンで竣工した、(アーティストのダミアン・ハーストのコレクションを展示するギャラリーとして知られる)ニューポート・ストリート・ギャラリー(Newport Street Gallery)の立面図が上に、ミラノのダニエル・マニン通りやロンドンのニューポート通りの写真が下に、というように構成されている。ニューポート・ストリート・ギャラリーは1913年に当時全盛の演劇のセットをつくる工房として建てられた3棟のヴィクトリア朝建築を新築した2棟の現代的な建築で挟んでいるが、新築した建物にもヴィクトリア朝建築(1837~1901年)の特徴である赤煉瓦が用いられて、ファサードを繋いでいる。5つの建物は違いがありながらも似通っており、印象的な通りの表情を生み出している。

ヴィクトリア朝の倉庫建築は産業革命による経済の発展が成熟に達した英国の絶頂期の象徴でもあり、「このような建築は時代を超えて使い続けることができ、プログラムが時代に合わせて変化していっても、物理的な存在感や建物のイメージは都市を形づくっている大事な要素であり続ける。」とカルソ・セント・ジョン・アーキテクツは言う。

  • カルソ・セント・ジョン・アーキテクツが手がけている9つのプロジェクトの立面図と彼らが影響を受けた21つのファサード写真が展示されている。
  • 立面図はオーク材の額装、写真はアルミマウントされている。
  • バーゼル大学生体臨床医学センター立面図(2015–2018)。すぐ下にはチューリヒ、コペンハーゲン、ロンドンの通りの写真が展示されている。


スイス館
キュレーター:アレッサンドロ・ボスハード、リー・タボール、マシュー・ファン・デル・プルーフ、アーニ・ヴィアヴァーラ

キュレーターである4人は2015年からスイス連邦工科大学チューリッヒ校で講師や研究職に就いている若手建築家たち。現代建築に家庭的な要素を持ち込もうとしていたブルーノ・ジャコメッティ(彫刻家アルベルト・ジャコメッティの実弟)の設計であるスイス館は、来場者に自宅にいるようにくつろぐ空間として作られていることから着想したという、住宅のインテリアを問い直す展示。「住宅のインテリアはもっとも親しみがある建築であり、それゆえに未開の地でもあるといって良いだろう。」とキュレーターたちはいう。

展示は〈Svizzera 240 – House Tour(Svizzera はイタリア語でスイスの呼称。240というのはスイスの住居における一般的な天井高240mmから。)〉というタイトルで、来場者は奇妙な住宅見学ツアーを体験することになる。曲がりくねった通路にドアや窓といった住宅の要素が連なるが、それらは通常に比べて大きすぎたり、小さすぎたりする。

通気よりも断熱を優先するヨーロッパでは、引違い窓よりも気密性が高い「ドレーキップ窓(下向きのハンドルを180°回転させるとサッシの上部が開き、90°回転させると内側への片開きになる)」が一般的であり、〈Svizzera 240 – House Tour〉の展示でもスイスで一般的な窓としてドレーキップ窓が使われている。展示されている窓は、パビリオンの中に作られているため、窓とはいえ、外を見るためのものではなく、半透明のガラスがはまっていることで、窓そのものというよりも、壁から切り取られた部分のスケールや取手の位置が際立って見える。

「とても楽しめる展示でありながらも、住空間におけるスケールの重要な問題に取り組んでいる」という審査員の評価により金獅子賞を受賞。スイス館が金獅子を受賞するのは今回がはじめて。

  • 窓や開口部といった要素だけが並ぶ展示空間。
  • 屈まなければ入れない開口部の奥には小さいスケールの窓。
  • 大人には小さすぎる窓も子どもにはぴったり。
    ©Naomi Shibata

 

柴田直美/Naomi Shibata
編集者。1975年名古屋市生まれ。武蔵野美術大学建築学科卒業後、1999~2006年、建築雑誌「エーアンドユー」編集部。2006~2007年、オランダにてグラフィックデデザイン事務所thonik勤務(文化庁新進芸術家海外研修制度)。以降、編集デザイン・キュレーションを中心に国内外で活動。2010〜2015年、せんだいスクール・オブ・デザイン(東北大学・ 仙台市協働事業)広報担当。あいちトリエンナーレ2013アシスタントキュレーター。2015 年、パリ国際芸術会館(Cité internationale des arts)にて建築関連展覧会施設について滞在研究。2017年、YKK AP「窓学」10 周年記念「窓学展―窓から見える世界―」展示コーディネーター。
www.naomishibata.com

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